神津島潜水調査2
目的
第2次調査で海中での砂礫堆積が確認された地点についてその後の被害状況の変化を把握する。
方法
調査月日:平成12年9月20,21日
調査地点:9月20日は埋没が疑われる多幸湾のイサキ魚礁と三浦湾について潜水調査を行った。9月21日はハシルマ地区での神津島漁協によるサザエ人工種苗の放流を兼ねて潜水によりハシルマ西側(キンザン付近)の土砂の堆積状況の変化を調べた(図1)。
図1 調査地点
結果
1) 多幸湾
 多幸湾の北側に神津島村が造成したイサキ魚礁の埋没状況を調べた。多幸湾の陸上部は崖の頂部が変形するほどの大量の崩落があり、陸上部には現在も大量の土砂が堆積し、沿岸部は白く濁っている。
 イサキ魚礁(自然石や瓦礫などを投入したもの)は昨年10月に村が調査したときには2m前後の立ち上がりがあり、イサキの魚群が確認されていた。水深15mに魚礁上部がみられたが、砂上に露出した石は立ち上がり50cm前後しかなく魚礁としての機能は果たし得ないと思われる。石の表面は背の低いアオサが優占しており、この頂部も一度埋没したことがうかがわれる。イサキなど有用魚類は見られず、砂との隙間に生息するイセエビが1尾確認された。
2) 三浦湾
 前回調査時と同様に湾奥部から潜降して崩落の大きい西側を湾口に向かって調査した(水深2〜10m)。最も崩落の大きい西側の湾口は波浪のため進入できなかった。
 湾全体が砂をかぶったような状態でになっており、湾口に向かうに従って砂の堆積量は増加する傾向にあった。また、湾奥部を中心に石に挟まった状態で埋没した木材の破片が数カ所で確認された。
 湾奥部ではトコブシの生息が確認され、浅所にはテングサ(マクサ)がまばらに繁茂し、トサカノリも随所に見られた。サザエは生息せずギンタカハマが多かった。
 湾口部に近い深所では前回と同様に、反転したと思われる大岩(大きいもので長経2, 3m)が確認された。反転した岩の表面にはアオサが生えだしており、ギンタカハマやクボガイ類が着生していた。
3) ハシルマ西側(キンザン付近)
 ハシルマ地区の陸上部にはまだ大量の土砂が堆積しており、返す浜西側から返す浜の中程まで白濁、ハシルマ西側のキンザン付近で少し濁りが途切れ、成沢付近で再び濁り、牛鼻付近から東側は著しく白濁していた。
 調査はハシルマ西側のキンザン付近で行った。潜降地点(水深10m前後)は砂地に岩が点在する地形で、水深9mくらいから岩が多くなり、8m以浅は岩場が主体となる。水深10前後でも岩の表面には浮泥が堆積していた。岩礁表面の浮泥の堆積量は浅くなるほど多くなる傾向が見られ、岩礁の基部に浮泥が滞留している場所もあった。また水深7〜8m以浅では岩の隙間に崩落起源と思われる砂礫が堆積していた。水深5、6m以浅は濁りとうねりのため調査できなかった。
 サザエの成貝は従前程度に生息しており成熟状態の確認のため63個を採集した。海藻はミルなどの小型海藻が主体。魚類はイサキの群などが見られた。採集したサザエの殻高は46.1〜142.1mm(平均87.2mm)、体重は26.0〜836.8g(平均183.5g)でこのうち15個体について成熟状態を観察したところほとんどの個体が産卵後の様相を呈していた。
考察
 地震災害後すでに3ヶ月近く経過しているが三浦湾、ハシルマ西側とも岩の表面には依然として浮泥が堆積しており、漁場環境は改善されていないものと思われる。いずれの崩落ヶ所も陸上にはまだ大量の土砂が堆積していることから、海中の濁りや浮泥の堆積は今後も続くことが予想される。
 サザエ成貝はほぼ産卵を終えているが、岩の表面を覆う浮泥は幼生の着底の障害となる可能性がある。また、夏から秋にかけてはテングサやトサカノリの胞子放出時期でもあり、成体の生残は認められるものの浮泥の堆積や海中の濁りが胞子の着生や生育に支障をきたすことが予想される。サザエ人工種苗も比較的被害の少ない場所で放流したが、浮泥の堆積が長引けば餌料不足も考えられるなど、貝類、藻類ともに今後の資源状態が懸念されることから、資源管理には十分に留意する必要があろう。


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