三宅島噴火災害漁場調査結果12
調査日:  平成14年5月21〜22日
調査場所:  図1の10地点
調査方法  SUCUBA潜水による目視視察、写真撮影。継続調査地点では海藻の1u枠取り、トコブシ4u枠取り。    
図1 調査地点
調査結果
1) 台が浜
 水深約7-11mで調査を行った。水中には縣濁物が多く、透明度は10m以下と悪かった。水深8m付近ではアントクメ・トサカノリ・シマオウギが優占し、トサカノリをサンプリングした。水深10m付近ではアントクメ・トサカノリが優占していた。直径0.5-1m程度の角張った転石が重なり合っており、所々に台形のテトラポット礁が沈設されていた。昨年7月の調査と比べ、転石には石灰藻もみられたが、繁りの良いトサカノリが多数みられた。礁にはトサカノリ・アントクメが優占して見れた。なお、アントクメは昨年と比べ減少傾向にあり、藻長は5-10cm程度と、この時期にしては非常に小さく、縮れているものが多かった。 海底には土砂及び泥をかぶった岩が所々見られ、転石の隙間は砂で埋没しているものが多かった。この状態は昨年7月の調査時と余り変化がなかった。これは、 陸上からの土砂流入が続いているためではないか、と推測された。
 昨年放流したトコブシ種苗は1個体発見した(写真1、2)。トコブシは天然貝が1-2個体/石程度の密度であった。放流地点はもう少し東側か?
 魚類はシマアジ・ムロアジの仲間の群れ、ハマフエフキ・テングダイ・イスズミ等が見られた。
写真1
写真2
2) アラキ
 水深7-9mで調査を行った(主に水深8m前後の定点周辺を調査)。縣濁物が多く、透明度は10m程度と悪かった。定点から沖側ではシワヤハズ(藻長10cm程度)が優占していた。流入していた砂が沖に流されたようで、岩の下部が白くなっているものが多く見られた。石の上(海藻の根元)にも砂がうっすらと積もっている状況。
 昨年7月の調査時と比べ、白化している岩や板石は減少し、表面には珪藻類が付着してるのものが多くみられた。テングサ1u枠取り調査は水深8mで行った。トサカノリはそれほど群生してみられなかったが、繁りが良く、藻長も長かった。定点付近ではシワヤハズ・フサノリ(?)、石灰藻が優占していた。定点の目印を縛っている岩上でテングサ枠取り調査を行った(写真3)。テングサは殆ど見られず、あっても藻長は短かった。
 魚類は少なく、ハマフエフキのみ確認できた。トコブシは各サイズまんべんなく見られた。個体数も多く、板石下に平均5-8個体程度確認できた。またクボガイ類も多数確認できた。天然トコブシの稚貝が多数見られ、昨年の繁殖が順調に行われたものと推測された。 
生物ではイセエビが所々大岩の下で確認できた。
3) 三池浜
 水深8-10mで調査を行った。縣濁物が多く、透明度は10m程度と悪かった。砂地の下に、火山灰(硬く、粘りがない)の堆積している場所が確認された。これは火山灰が硬化したものと思われ、非常に硬く、ナイフで刺してもなかなか砕けなかった(写真4)。
 転石の間は砂が入り込み、埋没しているものが多くみられた。転石上には土砂の堆積が多く、海藻類はテングサが優占するが藻長が短く石灰藻が付着しているのが目立った。その他の海藻は見られなかった。
 放流場所と潜水場所がずれたためか、放流貝は発見できなかった。サザエを1個体採捕した他、クボガイ類が多く見られた。
写真4
4) オオハシ
 水深7-10mで調査を行った。縣濁物が多く、透明度は10m程度と悪かった。定点は発見できなかった。
 高さ1m程度の岩表面には、藻長の短いテングサが多数みられた。高さが5-30cm程度の岩表面はツルツルで、表面は白化しており転石の隙間は砂で埋没していた。これは波浪によって漂砂が岩表面をヤスリのように擦るためではないかと推測された。テングサ1u枠取り調査は水深8mで行った。
 トコブシは1個体も発見できなかったが、クボガイ類は非常に多数みられ、また、サザエが良く目に付き、大型個体を8個体採集した。平均殻高100mm以上であった。イセエビの生息数は多いようで、大岩の陰で多数確認できた。魚類はタカベ(全長20cm程度)の群れが確認できた。 
5) ミノワ
 水深3-5mで調査を行った。前回調査時(昨年12月)と状況はあまり変わらず、大量の砂が留まっている。海藻類及び陸上植物片が大量に水中に漂っており、透明度は10m程度であった。水深5mでテングサ1u枠取りを行った。
 水深5m以深は一面砂地で覆われており、全てが埋没していた(写真A:25)。
水深5m以浅で転石が現れるが合間は砂で埋没し、表面は石灰藻やヒラキントキが優占し、小型のクボガイのみが見られた。トコブシは死貝のみ確認できた。
6) 阿古カマニワ
 水深5-9mで調査を行った。縣濁物が多く、透明度5m程度と悪かった。テングサはマクサが中心で、広域に優占してみられた。比較的成長がよいがヌマ付きが多いのが特徴であった。転石上にはテングサやトサカノリ等の海藻が群生する一方、大岩では頂上部に海藻のない(ごく短いか、珪藻が覆っている程度)ものが多くみられた。水深5mでテングサ1u枠取りを行った。 テングサ1u枠取り調査を昨年の7月調査時と比較すると、テングサが320gから872gと増えており、マクサ10本平均藻長は101.3mmから172mmに伸び、回復傾向にあると思われる。 トサカノリは繁りが良く、藻長が長いものが多く見られた。他の海藻類はアミジグサ・トサカノリが優占していた。特に海底に散在する転石には海藻類が非常に少なかった。
 トコブシは各サイズまんべんなく見られ、個体数も多かった。4u枠取り調査の結果、天然トコブシ31個体、放流トコブシ3個体の計34個体を採捕した。これは昨年の7月の調査時と採集個体数は同じであった。
 魚影が濃く、シマアジの群の他、ハマフエフキの群れ、スズメダイ類・ベラ類・ニザダイ類が多く見られた。
7) ユノハマ
 水深8-9mで調査を行った。透明度非常に悪く、水面で1m、水底で1-2m程度であった。岩の上や周辺には泥がかなり堆積しており、それが舞い上がって透明度を悪くしていると思われた。トサカノリやテングサは一部の岩の上にのみ生えている。
 水深7mの海底には火山灰由来の非常に柔らかい層が所々露出しており、手で触れると容易に火山灰が舞い上がる状況で、これも濁りの原因の一つではないかと推測された。テングサ・トコブシ枠取りは行わず、テングサを10本ほどサンプリングするに留めた。
8) ウノクソ
 水深6-9mで調査を行った。縣濁物が多く、透明度が悪かった為、定点ブイを発見できなかった。テングサは一面に分布し、成長も良かったがヌマ付きが多かった。
 水深8mでテングサ1u枠取り調査を行った結果、マクサ10本平均藻長は194mmで昨年7月の調査時(平均144.2mm)よりも大きかったが、テングサの総重量は360gから303gと若干減少した。
 岩肌は泥の堆積が激しく、沖側の岩にはトサカノリが生えていた。海藻の成長から、ウノクソにおいても、ごく最近、陸上からの泥流(土砂流入)があったものと推測された。
 泥が付着している岩が多く、 転石の合間は砂で埋没していた。トコブシ4u枠取り調査で天然貝を1個体のみ採捕した。
9) カタンザキ
 水深2-6mで調査を行った。シワヤハズ・アミジグサ・キジノオが優占して見られた。テングサはヌマ付きが目立ち、オオブサが多く見られるのが特徴であった。
 テングサ1u枠取りを水深2.6mで行った結果、総重量は480g中、テングサは430gで昨年7月調査時(455g)と同程度であった。トサカノリは繁りが良く、藻長も長いものが多数見られた。大きいもので藻長40cmを超え、また成長・繁りともに調査地点中、一番良い状態であった。テングサは表面に石灰藻が付いているものが多かった。
 造礁サンゴ類では小型サンゴ(ミドリイシの仲間が中心)が散見でき、回復傾向にあるのではないかと思われた。転石は少なかったが、トコブシ4u枠取りの結果、トコブシ7個体を採捕した。
10) ジョウネ
 水深5-8mで調査を行った。縣濁物が多く、透明度が悪かった。調査地点はトコブシの放流地点より若干北東よりだったと思われた。
 海藻類はヒラキントキ・石灰藻が優占していた。トサカノリは水深5m付近で散在しており、サンプリングを行った。なお、水深6?8mでは群落を形成していた。
 一昨年、昨年優占していたヒロメは殆どみられなかった。また前回の調査と比べ、石灰藻が優占する岩が目に付いた。
 トコブシは各サイズまんべんなくみられたが、調査地点は大岩が多く、転石はそれほど無い場所であった。4u枠取りの結果、天然貝を25個体採捕できた。生息数は(昨年7月調査時と比較、但し、枠取りせず)増加傾向にあると思われる。放流地点とずれていたためか、放流トコブシは確認できなかった。
11)その他
  ・雄山噴煙の様子(写真5)
  ・採集生物の拡大写真(写真6〜7)
  ・採集生物測定風景(写真8) 
  
今年度、大島差木地漁港において火山灰を用いた海藻礁試験を予定   している。今年1月に阿古漁港に運んでおいた火山灰(150kg弱)を     21日、三宅島 から神津島多幸湾へ運び、5月23日に調査指導船「や   しお」にて火山灰を大島分場へ持ち帰った。
写真5
写真6
写真7
写真8
4. 考 察
 今回調査結果の特徴は、下記の通りである。
  @アントクメが平成12・13年と比較して減少傾向にあること。
  A磯によっては昨年と比べトサカノリが増えており、且つ生育が良い(藻長・繁り)。
  B島の北東部でテングサ類の生息量・生育(藻長・繁り)が悪い。
  Cトコブシはアラキ・阿古カマニワ・ジョウネの3ヶ所で天然貝を多数確認できた。
  Dユノハマ?ウノクソにかけて、ごく最近、陸上から大量の泥流又は土砂の流入があったと推測された。海藻の繁茂状況から、この泥(火山灰? )は、ごく最近流入してきたものと思われる。

  Eユノハマで火山灰の軟塊、三池浜で火山灰が噴火直後に固まったと思われる塊が砂地の下から露出していた。 

 災害調査の前の週の6月16日(木)・17日(金)・18日(土)に雨が降り、その影響で泥流等が発生し、海へ流入したため透明度が悪かったものと推測される(資料@:三宅島現地災害対策本部情報/平成14年5月21日版)。
 海藻は本調査を実施した時期と、繁茂期が重なったため、各調査地点で多くの種類がみられた。テングサは例年、島の北東側で生産量の多いことが知られているが、昨年に続き、北東側では生息状況の悪い状態が続いている。トサカノリは、島の西側半分(台が浜)からジョウネ(北部)に掛けて繁茂しており、藻長・茂りとも良好であった。アントクメは噴火した平成12年から13年にかけて優占してみられたが、今年は減少傾向であり、数カ所で小型(藻長5?10cm程度)のものを確認できる程度であった。最も良く繁茂していたのは台が浜であった。
 トコブシ4u枠取り調査の結果、生息密度の高かった場所は、阿古カマニワ(34個体/4u)・ジョウネ(25個体/4u)・アラキ(21個体/4u)の3ヶ所であった。他の磯では7?0個体/4uであった。なお、アラキでは殻長14?20mm程度の昨年生まれた年級群と思われる個体が多数採捕できた。これはアラキ周辺で再生産が順調に行われているためと推測された。
 ユノハマからウノクソにかけて、岩頂部に十分成長しているテングサやトサカノリの上に大量の浮泥が付いていたたことから、ごく最近、陸上から大量の泥流が流入したものと思われた。ユノハマでは、海底の一部には泥が軟らかい塊となって砂の上を覆っている場所も見つかった。   

  三池浜では海底の砂の下から火山灰の塊が露出している場所がみつかった。かなり硬く固まっており、ダイビングナイフを突き刺しても、ほとんど刺さらなかった。砂地の下にあり、硬化していることを考えると、この灰の塊は噴火初期のものと推測された。

5. 要 約
 1. 調査日  平成14年5月21・22日
 2. 調査地点 三宅島周辺10地点(図1)
 3. 調査結果
  1)泥流の流れ込んだ地点の状況(アラキ・オオハシ・カタンザキ)
  カタンザキでは粒子の細かい泥や砂は余りみられなかった。アラキ・オオハシでは おおむね砂礫の堆積量は減少していた。
  2)崖崩れのあった地点の状況(ユノハマ・ウノクソ)
  浮泥の堆積は各所でみられ、特に岩表面に堆積しているのが目立った。海藻類が十分に成長した上に浮泥が付着していることから、浮泥は、崖崩れにより海岸に堆積していたものではなく、泥流としてごく最近、海へ流れ込んだものと推測された。
  3)浮泥の堆積
  全般的に、各調査地点とも岩肌には浮泥の堆積が確認された。
  4)テングサの生育状況
  最高は、阿古カマニワの1u内に872gであった。阿古カマニワ・ウノクソ以外はテングサの10本藻長平均が100mm前後であった。全般的に、藻長が短く、またヌマ付き、石灰藻付きのテングサが多いのが目立つ。
  5)トサカノリの生育状況
  台が浜・阿古カマニワ・ウノクソ・カタンザキ・ジョウネで繁り・藻長の良いトサカノリを確認できた。
  6)トコブシの生育状況
  全般的に生息量は少なく、最高は阿古カマニワの4u内に34個体(うち放流貝3個体)で、三池浜・オオハシ・ミノワ・ユノハマでは採捕されなかった。昨年放流した放流貝は台が浜・ジョウネ・阿古カマニワ・三池浜で少数しか確認できなかった。
  7)イセエビ
  アラキ・オオハシで多数確認できた。その他の地点では確認できなかった。   


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