三宅島噴火災害漁場調査結果14
調査日:  平成14年10月23〜24日
調査場所:  7地点
平成14年10月23日:ニッパナ・坪田・オオハシ・ウノクソ・阿古カマニワ
         24日:カタンザキ・ユノハマ

         (1)定点(マークした岩)の周辺で継続調査する地点(3地点)           ウノクソ・カタンザキ・オオハシ・アラキ(海況悪いため未実施)
         (2)定点は設置せず、継続調査する地点(2地点)
           阿古カマニワ・ユノハマ・ミノワ(海況悪いため未実施)
         (3)トコブシ放流貝追跡調査地点
           ジョウネ(海況悪いため未実施)
         (4)漁協から調査依頼のあった地点(1地点)
           坪田
調査員: 東京都水産試験場大島分場  安藤 和人・杉野 隆・滝尾 健二・                           駒沢 一朗・向山・常比古
使用船舶:  三宅島漁協「吉広丸」
調査項目:  (1)海中の火山灰、砂、礫、石の堆積状況
         (2)テングサ等海藻着生状況
         (3)トコブシ・イセエビ等動物の生息状況
         (4)その他特徴的事項
調査方法  SUCUBA潜水による目視視察、写真撮影及びビデオ撮影。定点・継続調査地点では海藻の1u枠取り、トコブシ4u枠取り調査を行った

*なお、今回の調査には、東京都水産大学荒川助手・森君(学生)が、10月23日、別途三宅島漁協「盛栄丸」を用船し、別目的のため、同行した。
図1 調査地点
調査結果
 10月23日(水)
1)ニッパナ:水産課から依頼(イセエビ礁投入のための状況調査)
 ・透明度15mと良く、調査は水深15〜18m前後で行った。
 ・海底は砂地が広がり、巨岩(直径3〜4m)が点在していた(写真@A)。また所々に沖合に向かって根が発達し、根の合間に大岩(直径1〜2m)が点在していた(写真B)。比較的新しいと思われるスコリアが散積していた。
 ・海藻類はほとんど生えていなかった(写真C)。また貝類やイセエビを確認できなかった。
 ・魚類は、スズメダイ類、ハマフエフキ、ニザダイ等が確認できた。
 ・水中観察の結果から判断すると、海藻類が生えておらず、貝類やイセエビが全く確認できない状況であり、イセエビ礁投入候補地として不適であると思われる。今後十分な検討が必要であろう。
写真1
写真2
写真3
写真4
2)坪田(ウシノクビ周辺、禁漁区との境):漁協からの要望イセエビ生息状況調査
 ・透明度は15m程度。根が所々あり、台風によると思われる石の反転があちこちでみられた。水深10mの根の底付近(写真D)でイセエビ3個体を確認し、うち、1個体を採捕した。測定の結果、頭胸甲長69.7mm、体重246gであった。
 ・根に沿って直径約0.5〜1.5mの岩が点在。海底及びその周辺の岩上に海藻類はほとんどみられなかった(写真E)。
 ・アカハタ(全長30cm程度)が多くみられた。岩穴や岩間にウツボが多くみられた。
 ・根の上では、無節石灰藻類が広く優占し(写真F)、藻長2?4cm程度の短いテングサ類も広く生えていた。
写真5
写真6
写真7
3)オオハシ
 ・透明度は約2-3mと悪く、定点ブイは発見できなかった。東からのウネリ(波高4-5m)が大きく、枠取り調査ができない状態になり、潜水調査は途中で中止した。
 ・テングサ枠取り調査(水深7.4m)のみが行えた(写真G)。1u枠取りの結果、テングサ類を213g採集できた。テングサ類は表面に石灰藻等が付いているものが多くみられた。テングサ枠取り調査 を行った周辺の岩や転石上の一帯にテングサ類が生え、前回の調査時と比較すると、広く繁茂していると思われる。
写真8
4)ウノクソ
 ・透明度は約5mと悪く、定点は発見できなかった。海底には流木や陸上由来の枯れ葉などが大量にみられた(写真H)。
 ・以前、海底は転石が多い場所であったが、海底状況が激変していた(写真I)。一面に砂地が広がり、かろうじて大岩の頂部が頭を出しており、トコブシが生息可能な転石は無くなり、トコブシは採捕できなかった。
 ・大岩頂部にはテングサ類が生えており(写真J)、目視で藻長10〜15cm程度と成長がよかったが、藻体が細いのが特徴的であった。ハネサイミが所々でパッチ状に生えていた他、カニノテがみられた。
 ・急激な砂の堆積量増加により、サンゴの下半分が白化しているのがみられた(写真K)。
写真9
写真10
写真11
写真12
5)阿古カマニワ
 ・透明度は約10m。台風の影響か、反転している石が多く、直径1m以上の岩に亀裂が入って砕けているのを確認した。また全体的に砂の堆積が増えていた。
 ・テングサ枠取りは水深8.8mで行ない、マクサ175gを採集した。テングサ類は石灰藻付きやハナ付きが多く、色が抜けたものが多かった(写真L)。
 ・トコブシ枠取り調査は水深8.4mで行ない、8個体採捕した。枠外では転石1個あたり11個体のものもあった(写真M)が、全体として生息量が減少していた。今年は夏から秋にかけて大型の台風が続き、その影響(石の反転等により潰れて 死亡)が考えられた。
写真13
写真14
10月24日(木)
6)カタンザキ

 ・透明度は3〜5m程度と悪く、転石は少なかった。前回と比べ、根の合間に砂の堆積が増えており(写真N)、台風によるものと思われた。水深3.8mで行ったテングサ枠取り調査(写真O)の結果、テングサ類(オオブサが多い)を195g採集した。トコブシ4u枠取り調査の結果、天然貝は採捕できなかった。枠外で適当な転石を反転し、計トコブシ3個体を採捕した。トコブシは非常に少なかった。
 ・シワヤハズや無節石灰藻、ハネサイミが優占している状況に変化はなかった。
 ・前回に続きテングサ類は表面に石灰藻が付いているものが多かった。
写真15
写真16
7)ユノハマ
 ・透明度は非常に良く、20m程度であった。水深6.4mの砂地の各所から気泡が発生しており(写真P)、温泉が湧いているものと思われた。
 ・砂の堆積量は減少傾向にあり、各所で、岩の下側が白化しているものが確認できた(写真QR)。水深7.4m以深は砂地が広がっていた(写真S)。適当な転石を反転すると温泉でみられる鉄色の湯あか様のものが剥がれた(写真P)。
  ・海藻類は、海底付近では何も生えていなかった(写真21)。一方、背の上ではハネサイミ・テングサ類がみられた。テングサ類は藻長5cm前後と短かった(写真22)。テングサ枠取り調査を水深5.5mで行った結果、テングサ類150gを採集した。
 ・転石は砂で埋没しているため、トコブシ4u枠取り調査は行えなかった。
 ・魚類は種数が多く、ハマフエフキ・ヨメヒメジ・クロユリハゼ・ニザダイ・スズメダイ類・ベラ類・タカノハダイなどがみられた。
写真17
写真18
写真19
写真20
写真21
写真22
4. 考 察
 今回、調査前の週に台風22号が通過したため、特に濁りの強い島の北東部を重点的に調査してほしい旨の連絡を、三宅支庁産業課水産係から受けていた。しかし、2日間とも東からのうねりが強く、島東部の調査は十分に実施できなかった。特に「ジョウ ネ」?「アラキ」にかけて、時折、非常に大きなうねり(波高4〜5m)がみられ、船上から確認した限り、海の色は白濁している場所が多かった。
  激しいうねりのため、「オオハシ」では、テングサ枠取り調査を行っただけであった。わずかな潜水調査時間で、広い範囲を調査できなかったが、海底の多くの岩にはテングサが比較的まんべんなく生え、藻長も10〜15cm程度と良かった。前回の調査時は、テングサ類は岩の頂部でのみみられたことから、回復傾向にあると思われる。
  また、「ウノクソ」では砂地に転石が散在し、泥を被った岩・転石の多い磯であったが、一面砂地に激変してしまった。台風による新たな土砂崩落か泥流等の流入によるものか調査中であるが、大岩の頂部がわずかに砂地から出ているような状況で、砂地から海藻類が生えていたり、サンゴが下半分が埋没し、白化していた。今後、土砂の堆積量の変化を追跡調査する必要がある。
  また、「阿古カマニワ」でトコブシ4u枠取り調査した結果、採捕できたのは8個体(放流貝なし)のみであった。7月の調査実施時は34個体(うち放流貝3個体含む)であったが、この磯が南西方面に開いるため、生息する転石が波浪で反転するなど台風による影響を受けやすい為と思われる。来年以降、島の気象条件を考慮し、種苗放流場所として、再検討することも必要であろう。
5. 要 約
 1. 調査日  平成14年10月23・24日
 2. 調査地点 三宅島周辺7地点(図1)
 3. 調査結果
  1)泥流の流れ込んだ地点の状況(オオハシ・カタンザキ)
  「オオハシ」では、前回7月の1u枠取り調査と比べ、テングサ類の採集量は203g→213gと変化が少ないものの、枠取り調査 を行った周辺の岩や転石上には一様にテングサ類が生え、テングサ類は回復傾向にあるものと思われた。なお、表面に石灰藻等が付いているものが多くみられた。
  「カタンザキ」では、7月の調査時と比べ、あまり状況の変化がみられなかった。4u枠取り調査の結果、トコブシは採補できなかったが、テングサ1u枠取り調査の結果、テングサ類(オオブサが多い)は195g採集した。しかし、テングサ類採集量は前回7月(371g)の約半分に減り、オバクサが優占種に変化していた。他の海藻類はシワヤハズや無節石灰藻、ハネサイミが優占している状況に変化はなかった。なお、前回に続きテングサ類は表面に石灰藻が付いているものが多かった
  2)崖崩れのあった地点の状況(ユノハマ・ウノクソ)
  「ユノハマ」では前回と比べ、状況に変化はみられなかった。一方、「ウノクソ」は海底状況が激変してしまい、以前、海底は転石帯であったが、今回、一面に砂地が広がり、かろうじて大岩の頂部が頭を出すような状況に激変した。トコブシが生息可能な転石は無くなり、トコブシは全く採捕できなかった。大岩頂部にはテングサ類が生えており、目視で草丈10〜15cm程度と成長は良いが、藻体が細いのが特徴的であった。他の海藻類はハネサイミが所々でパッチ状に生えていた他、カニノテがみられた。また、急激な砂の堆積量増加により、サンゴの下半分が白化しているのがみられた。
  3)浮泥の堆積
 「ウノクソ」の岩上でみられた程度で、浮泥よりも砂の流入が多かった。
  4)テングサの生育状況
 「オオハシ」では、海況が悪く十分な調査が行えなかったものの、調査地点周辺ではテングサ類がはえており、回復傾向にあるものと思われた。「ニッパナ」「坪田」「カタンザキ」「ウノクソ」「ユノハマ」では非常に少なく、また藻長も短いものが多かった。一方、「阿古カマニワ」のテングサ1u枠取り結果は、マクサ175gで、前回7月(オバクサ中心)の6割程度であった。
  5)トコブシの生育状況
 大型の台風の影響のためか、前回と比べ、全体的に生息数が減少していた。特に島の南から南西部にかけて、その傾向が強かった。枠取り調査では、「阿古カマニワ」で8個体採捕できたが、他の場所では採捕できなかった。なお、「坪田」「カタンザキ」の枠外で若干採捕できたが、放流貝は確認できなかった。
  6)イセエビ
 「坪田」の根周辺で確認できたが、その他の地点では確認できなかった。
  7)イセエビ礁投入予定地(ニッパナ)  
 調査は水深15〜18m前後で行った。海底は砂地が広がり、巨岩(直径3〜4m)   が点在し、所々に根があり、根の合間に大岩がみられた。海底には比較的新しいと思われるスコリアが散積していた。 海藻類はほとんど生えてなく、貝類やイセエビも確認できなかった。魚類は、スズメダイ類、ハマフエフキ、ニザダイ等がみられた。
 
水中観察の結果から判断すると、海藻類はみられず、貝類やイセエビが全く確認できない状況であり、イセエビ礁投入候補地として不適であると思われ、今後再検討することも必要であろう。


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