三宅島潜水調査2
 三宅島は平成12年7月より断続的に噴火を繰り返してきたが、8月18日には、上空1万メートルに噴煙が達する大きな噴火を起こし、島の西側を中心に火山灰が降下した。前回の調査では東から北東部で調査を実施したが、今回は島の西部を中心に火山灰の海中への堆積状況、テングサ着生状況、トコブシ生息状況等調査を行った。
調査月日 平成12年8月28〜30日
調査場所
海中調査:三宅島西部の錆ヶ浜〜ウノクソ(29日)および北部のオオサキ(30日)(図1)
陸上調査:アラキ(28日)、カマニワ・カタンザキ(29日)
調査方法
 海中調査はSCUBA潜水により、目視観察、写真撮影、転石の反転、堆積物の掘り出しなどを行った。陸上調査はトコブシ漁場岸側の浜を踏査し、トコブシ死殻の有無を確認した。
調査結果
1)海中調査
1.錆ヶ浜
 水深9m、火山灰によると思われる濁りがあり、透明度は海底付近で水平4m程度であった。岩間の堆積物は噴火以前からの砂が主体である。トコブシは転石下に多く、テングサは普通に着生しており、異常はみられなかった。
2.カマニワ(学校下)
 水深7〜9m、水は濁っており透明度は水平で約4m。所々に径1〜2mの岩がありその間は中小根石・転石帯である。火山灰の堆積が認められ、堆積量は低い岩の上では海藻の根元を埋めるように厚さ0.5〜0.8cm、岩間の谷の部分では厚さ2〜3cmである。谷の部分の表面は以前からあった粒の荒い砂に覆われているが、その下に火山灰層があり、手を入れるとネットリとした感触があり、掬ってみると手のなかで塊状となるが、握ると煙のように舞って塊が消える。
 トコブシは普通に見られ、長径40〜70cmの転石を6個起こしたところ平均3.7個のトコブシが生息していた。一方、火山灰層の中から肉のついた死殻を1個体掘り出しており、これは降灰の影響で死亡した個体と思われる。テングサの着生量は普通で草丈も十分であったが、葉上に火山灰の付着したものが多かった。
3.夕景浜
 潜水地点は水深10〜12m、海底は径1〜2mの大根石が主体で転石は少ない。火山灰の堆積量はカマニワより多く、低い岩の上では 0.5〜1cm、岩間では5〜10cmに達する。岩間の火山灰層の上に砂は少なく替わりに泥様の堆積物がみられ、一見して今回の噴火による火山灰の堆積と分かる。堆積物はカマニワと同様掬うと塊状になる。テングサは高い岩の頂上部のものを除き葉上への付着量は多かった。特に、藻体の根元に近い部分に付着量が多く、中には火山灰が塊状に付着するものもあった。
4.ユノハマ
 水深7〜9m。大岩の多い岩礁帯で、場所によってはほとんど火山灰は堆積していないが、全般的には堆積量は多く、大岩の間では5〜10cmの堆積がみられた。転石は下部が埋没しているものが多かった。4個の転石を起こしたところ、下部が埋没していなかった径30cmの転石にのみトコブシ2個の生息を確認した。テングサは夕景浜と同じ状況であった。
5.ウノクソ
 水深8m。岩上の火山灰の堆積量は0.5 〜1cm 、岩間の火山灰の層厚は2〜3cmでユノハマよりは火山灰量は少なかった。トサカノリには火山灰の付着はみられなかった。転石は少なく、トコブシの生息量は元々少ない漁場と思われる。造礁サンゴが比較的多かったが、その内の約7割が斃死し、群体上に火山灰が堆積していた。
6.オオサキ
 水深5m程度。透明度は約1mと悪く、海底の詳細は不明である。岩礁帯で、海底に手を入れた感触では岩間に火山灰の堆積を感じたが、堆積量は恐らく1cmを越えない。降雨による道路通行止めの恐れが生じたため、現場到着後数分で調査を中止した。

2)陸上調査
1.アラキ
 海岸のゴミ・枯れ枝などが打ち上げられている部分でトコブシの殻を採集したところ、肉の付いたトコブシ3個、その他死殻35個体を採集した。肉の付いたトコブシは殻内面の真珠層には光沢があったが、外側はスレがひどく、一見すると死んでからかなり時間の経過した死殻のように見える。アラキ砂浜は拡大しており、地先の転石の埋没によりトコブシの大量斃死が起こった可能性が高い。
2.カマニワ(学校下)
 海岸にはトコブシの殻はみられなかった。カマニワの海中には、前述のとおりトコブシの生息が多く、火山灰の堆積によるへい死は少ないと考えられる。
3.カタン崎
海岸の岩礁、砂浜にトコブシの殻はみられなかった。地先の海中調査はウネリのため実施できなかったが、海岸に死殻がみられないため、トコブシの大量へい死は起こっていないと推定される。

3)まとめ
 今回調査した三宅島西側の錆ヶ浜からウノクソでは、いずれも降灰による濁りがあり透明度は悪かった。陸上降灰量は図2のとおりで、降灰量が比較的少なかった錆ヶ浜・カマニワではテングサに火山灰の付着がみられるものの枯死体は無く、トコブシには顕著な被害を与えていなかった。一方、降灰量の多かった夕景浜・ユノハマでは、岩間に5〜10cmの火山灰層がみられ、転石下部は埋没しているものが多く、トコブシはかなり影響を受けているものと思われる。同地区のテングサも藻体への火山灰の付着量が他の地先より多かったが、藻の枯死は確認できなかった。ウノクソの火山灰堆積量はカマニワより多く夕景浜より少なかった。
 以上のように、三宅島西側における海中の火山灰堆積量は陸域での降灰量に対応しており、これは、8月18日の噴火以後の降雨量が少なく、陸から沢を伝っての火山灰の海中流入が起こっていないこと、及び、シケがなく、一旦海中に堆積した火山灰の移動が起こっていないためと考えられる。
 現段階では水産生物に対する影響は限定的なものと考えられるが、今後、大雨による火山灰の大量流入、テングサ等海藻類への火山灰付着の長期化、濁りによる光量不足の長期化等により、トコブシの大量へい死、テングサの枯死が起こる可能性がある。

図1.調査地点

図2.火山灰層厚

錆ヶ浜
水深9m
火山灰は少なく転石下にトコブシが多い

カマニワ(学校下)
水深8m、転石帯。
調査員の動きで灰が舞い上がる。

夕景浜1
水深10m  堆積する火山灰粘土状。
塊の横幅10cm。

夕景浜2
水深10m 海底の海藻には
火山灰の付着量が多い。

夕景浜3
テングサに付着する火山灰。
根元付近に塊がみられる。

夕景浜4
水深10m 海底の火山灰層に
散乱するトコブシの死殻。

ウノクソ
水深7m 造礁サンゴの斃死。
テングサの所々に火山灰が付着する。

アラキ
海岸の拡大。手前は泥流によって
陸上から流れ込んだ流木。


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