三宅島潜水調査4
東京都水産試験場
1.目的
 平成12年6月から始まった三宅島の噴火活動により漁場被害が発生した。前回、3月の島東側の調査に引き続き、今回は西側の漁場について被害状況を把握する。
2.方法
 1)調査日 平成13年4月17日
 2)調査員 水産試験場資源管理部 米山純夫
                        工藤真弘
   同行 三宅村 観光産業課     長谷川 亘
   調査船 三宅島漁協所属 吉広丸
                   新栄丸
 3)調査地点
   三宅島の西側6地点(カタンザキ、ウノクソ、ユノハマ、夕景浜、カマニワ、錆ケ浜、図1)
 4)調査項目
  (1)海中における泥、火山灰、砂、礫、石の堆積状況。
  (2)テングサ・トサカノリの生育状況。
  (3)トコブシ・イセエビの生育状況。
  (4)その他特記事項。
 5)調査方法
   SCUBA潜水による目視観察、ビデオ撮影、写真撮影、標本採集。
3.結果
1)カタンザキ(写真1〜4)
 海岸は昨年8月には堤防近くを除き磯浜であったが、現在は堤防から波打ち際まで砂浜になっている(写真1, 2)。なお、調査日は小潮、調査時間12:00の推計潮位は95cmであった。堤防の中央部には伊ヶ谷沢の排出口が開いておりここから泥流と共に火山灰、礫等が海岸に排出され岩礁を覆ったものと考えられる。
 海底は岩盤帯で、岩盤上の窪みや溝は沖に行くに連れて深くなっている。波うち際付近から岩盤が現れており、水深1〜3mでは砂礫は小さな溝や転石の間に存在しているが、砂地を形成している場所は少ない。表面が自変した岩はほとんど無く、岩や転石の上部は丈の短い海藻(芽生えの状態)に覆われている。カタンザキはトコブシの優良漁場であったが、径40cm前後の転石を約15個起こしたにもかかわらず、成貝は1個体もみられず、僅かに殻径1.5cm程の稚貝2個体を確認したに留まった。
 水深4m付近も溝や窪みのある岩盤帯で、盆地上になった部分に小さな砂地が形成されていることもある。岩の上部はシワヤハズやコモングサ類が優先するが、テングサ類もみられる。マクサの平均葉長は87mm、オバクサは64mmであった。造礁サンゴが所々に出現するがミドリイシ類は多くが死滅し、表面には既に海藻が着生している。
 水深7m付近は起伏のある岩盤帯で溝の部分に転石・砂礫は少ない。岩盤上に造礁サンゴが多くなるが、テーブル状に生育するミドリイシ類は7〜8割は死滅し遺骸上に短い海藻やトサカノリが着生し(写真4)、一方、被覆状のサンゴは生きているものが多かった。岩の上部はシワヤハズ、コモングサ類、テングサ類が多く、トサカノリは所々に着生するが葉長は5〜15cm、平均77mmと短く漁獲できる状態ではなかった。
写真1
写真2
写真3
写真4
2)ウノクソ(写真5〜7)
 ウノクソの南西側崖面に崩落の跡がみられ、この場所の前面、岸から40〜50mの地点から潜水を始めた。水深は約7mで海底は径1〜2mの岩が点在し、その間は砂礫小石帯となっている。堆積物の粒子は、アラキやカタンザキのように明らかに泥流が流れ込んだ場所に比べて荒く、小石には角があるため、崖の崩落により海中に落下したものを多く含んでいると思われた。堆積物の層厚はかなり厚く、20cmほど手で掘ったが底に達せず、また、小石を多く含んでいるため掘りにくかった。岩上に海藻は少なかった。
 潜行開始地点から南西側に進み、水深8mでも岩間は砂礫帯になっていたが、7m地点より堆積物の粒子は細かくなっている。高い岩の上にはテングサが優先している。水深9〜10m付近では大岩の間に径30〜40cmの石が顔を出している場所もあるが、下部は砂礫に埋没し、トコブシの住める隙間はなかった。堆積物の層厚は約10cmである。造礁サンゴがところどころにみられるが、テーブル状のミドリイシ類は全て死滅していた。成イセエビと稚イセエビ(昨年着底)の脱皮殻各1個体を認めた。岩上にはテングサ(マクサ)が多く、 トサカノリはまばらに着生する。平均葉長はマクサ127mm、トサカノリ84mmであった。
写真5
写真6
写真7
3)ユノハマ(写真8、9)
 水深5mでは岩礁の間が広い石帯になっており、石の大きさは10〜40cmと大きく、角があり、表面には着生生物がみられないことから、昨年8月の地震により崖から崩落した石が堆積したものと思われる。この石帯を構成している石は沖に向かって次第に小さくなり、水深12mでは巨岩間の砂礫帯となっている。巨岩の下部側面は高さ20〜40cmに渡り自変している。トコブシの生息し易い転石はみられなかった。高い岩の上はテングサが優占している。
写真8
写真9
4)夕景浜(写真10〜12)
 水深8m付近は根石転石帯で所により小石帯がみられる。火山灰・礫は少なく岩上はテングサが優占する。水深11m付近では砂礫が増加するが、転石を埋没させる程ではない。水深12mでは岩間の砂利が一部転石を覆うが噴火の影響かどうかは明確でない。水深11〜12mで径40cm程度の転石を6個起こしたたところ、トコブシ成貝3個体、30cm程度の転石3個に稚貝(殻径約1.5cm)1個体を確認した。岩上にテングサは多く藻体に火山灰は付着していない。 トサカノリはまばらにみえるが葉長は10〜15cmと短かかった。
写真10
写真11
写真12
5)カマニワ(写真13〜15)
 水深5m付近は根石転石帯で火山灰や火山礫は少ない。岩上にはテングサが優占するが、オバクサは殆どヌマ付き(珪藻類の着生)である。径30〜40cmの転石6個にトコブシ成貝4個体、径20cmの転石3個に稚貝1個体を確認した。水深7m付近では径30〜40cmの転石8個に成貝5個体、稚貝1個体がみられた。トサカノリは場所によって直径40cm位の群落を作っているが、全体的な株数は3月に調査した大久保港西より少ない。色彩は白っぽく、葉長は10〜15cmと短かった。テングサはハナ付き(カギウスバノリの付着)混じりである。トサカノリ、マクサの平均葉長はそれぞれ114mm、144mmであった。
写真13
写真14
写真15
6)錆ヶ浜(写真16〜18)
 水深7〜8mは根石転石帯で火山灰や火山礫は少ない。岩上にはテングサが優占しヌマ付きハナ付きは少なく草質は良好である。マクサの平均葉長は135mm。径40cmの転石を起こすと約半数の石にトコブシ成貝、稚貝が付着し、放流貝も含まれている。岩間にイセエビを1尾確認した。
写真16
写真17
写真18
4.考察
 今回調査した島西側6地点の噴火後の状況は次の3つに分けられる。(1)泥流が流入した場所、(2)地震により海中に岩石・土砂が崩落した場所、(3)火山灰が降下した場所。
(1)泥流が流入した場所(カタンザキ)
 カタンザキは昨年8月には海岸が磯浜であったが、現在は砂浜になっており、9月以降に発生した泥流が伊ヶ谷沢を通って海岸に流入したものと考えられる。海中にも同じように砂礫が堆積しているものと予測されたが、実際に潜水してみると、海底に砂礫は少なく、波打ち際付近から岩礁が現れていた。カタンザキは、噴火前、浅い岩盤上に転石が多数存在する優良なトコブシ漁場であった。調査時、転石は砂礫に埋没しておらず底部にはトコブシが生息できる隙間があったが、約15個の転石下に成貝はみられず、僅かに殻長15mmほどの稚貝2個体を確認したにとどまった。また、転石表面には短い海藻が着生していた。これらのことは、昨年秋以後発生した泥流によリー旦漁場が火山灰・礫に覆われ、生息していたトコブシが死滅し、その後比較的早い時期に砂礫が沖合に流出して10月頃のトコブシ産卵期には幼生の定着が可能な岩が少なくとも一部は現れていたことを示している。
(2)地震により海中に岩石・土砂が崩落した場所(ウノクソ、ユノハマ)
 ウノクソ・ユノハマでは海底に粗く角のある石が堆積しており、泥流によって流入するスコリアや多孔質の溶岩塊とは明らかに異なる岩質であった。ウノクソ〜ユノハマの陸上部の崖は昨年7月30日の地震後に大規模な崩落が確認されており(写真19〜21)、現在でも崩落した跡が残っている。両地点の内陸側では泥流が発生しており、海中に泥流が流れ込んだ可能性はあるが、海底堆積物のかなりの部分は崖の崩落によるものと考えられる。堆積物により岩の下の隙間は埋まっており、トコブシの住み場所は殆どない。堆積している石が粗いため、波浪によっても流出しにくく、カタンザキの砂礫がすでに流出ているにもかかわらず、両地点の石は未だに残存している。今後堆積が長期化する恐れがある。
(3)火山灰が降下した場所(夕景浜、カマニワ、錆ヶ浜)
 夕景浜、カマニワ、錆ヶ浜では、前回の調査で確認された火山灰が殆どみられなくなっている。夕景浜は昨年8月29日の調査時には海底に5〜10cm火山灰が堆積していたが、今回はそれらが流出し、岩間には小さな玉石が見えている。カマニワにおけるトコブシの生息密度は前回8月の調査では長径40〜70cmの転石に平均3.7個体であったが、今回は30〜40cmの転石に成貝が平均0.7個と減少している。これは、昨年8月以降の降灰により、火山灰への埋没、鯨の損傷、長期間の強い濁りによるストレスなどが発生し、一部の個体がへい死したことを示している。錆ヶ浜では8月の時点ではカマニワほど降灰量は多くなかったが、濁りは発生しており降灰によるトコブシヘの影響はあったと思われる。
 トサカノリは調査した6地点全てで着生が確認されたが、いずれも草丈が短く、漁獲するにはまだ早い状況であった。テングサは岩の上部を中心に着生し、着生密度は普通で、藻質は所によリヌマ付きやハナ付きが日立つが全体的に大きな異常は見られなかった。
地震発生時の様子(写真19〜21)
写真19
写真20
写真21

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