東京魚チング

アジのゼンゴ

 アジの特徴は体側にある「ゼンゴ」と呼ばれる棘状(とげじょう)の鱗で、魚類学ではこれを稜鱗( りょうりん )あるいは盾状鱗(たてじょうりん)と呼ぶ。もともと、鱗の役目は体表の保護で、太古の魚類は現存のシ−ラカンスのような厚い鎧状の鱗をしていた。それが、数億年間の進化で硬骨(こうこつ)魚類では小さな薄板状の円鱗(えんりん) となり、動きやすく遊泳力も増加した。硬骨魚類のなかで、なぜアジにだけこんな鱗があるのか。一説には、後方から他の魚に襲われても稜鱗がバリヤ−として働くと言われる。でも、これだけの理由なら全てのアジが捕食されずに生き残ってしまい、海の食物連鎖(しょくもつれんさ)が狂う。アジの稜鱗は体の両面にある側線(そくせん)という感覚器官を覆うように一列に並ぶ。側線には神経から伸びる粘液管(ねんえきかん)が多数開口し、水圧、水流、水波の変化を感じる。稜鱗の働きは不明だが、シマアジでは体長1cmの稚魚期に稜鱗が他の鱗に先駆けて尾の付近から側線に沿って発達し、それから円鱗ができ始め体長3cmで体全体が覆われる。稜鱗が側線に沿って、しかも真先にできるのは、感覚機能の発育と関連がありそうだ。アジの群が急な方向転換を一糸乱れず行うには、ひしめき合う前後・左右・上下の魚と衝突しない素早い対応が必要である。外界の変化を正確にキャッチするため、稜鱗が外界のシグナルを増幅するのかもしれない。しかし、同じアジ科魚類でもブリにはゼンゴがない。おそらく長距離を高速回遊する際に突起物で邪魔なため、環境に適応しながら、各々の種が進化した結果であろう。八丈の海にもアジの仲間が多く生息する。ムロアジ、マアジ、シマアジ、メアジ、カイワリetc 。刺し身で、煮魚で、焼き魚で美味いアジにも、美しいバラと同じく棘がある。ゼンゴ( 前後) の見境なく、逆撫ですれば痛い思いをする。くれぐれもご用心!mu
ムロアジ写真
写真・ムロアジ

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