東京魚チング

血合肉(ちあいにく)のパワー

 生まれてから死ぬまで、海底で一生を終わる白身魚のハタやヒラメから見れば、海をところ狭しとパワフルに泳ぎ回る赤身魚のマグロやカツオの一生は華やかだろう。この違いは、どこから生まれるのだろうか。言わずと知れたことだが、我々が刺し身で食べる魚の部分は筋肉、それも体側筋( たいそくきん) である。これには普通筋と血合筋(血合肉)があって、調理人は血合筋が多い魚を赤身魚、少ない魚を白身魚と呼ぶ。魚にとって、どの筋肉が多いかによって運動性が異なる。白身魚に多い普通筋の白色筋は血管に乏しく、疲労し易い。持続性はないが、働きは強力だ。ヒラメやハタが砂の中や岩影から獲物をじっと待って、瞬時(しゅんじ)にパクッとやれるのは白色筋のお陰である。逆に、血合筋には多くの血管が通い、働きは緩慢(かんまん)だが持続する。カツオやマグロが長時間、活発に遊泳できるのは普通筋の他に血合筋が多いからである。血合筋は魚類特有の筋肉で、長時間の活発な運動の際には赤黒い色の素となるミオグロビンという色素蛋白質が運動に必要な酸素を補給する。また、肝臓に似た働きもすることから第二の肝臓ともいわれる。この活発な働きで生じる熱は血合筋内の動脈と静脈からなる奇網(きもう)と呼ばれる血管ネットワ−クによって保たれ、このため体温が高くなる。マグロ類の体温が海水温よりはるかに高いことを報告したのは欧米の研究者で今から百六十年前のことであった。この報告は、それまでの変温動物である魚の体温は全て、周囲の海水温とほぼ同じという常識を打ち破るものであった。体温が高ければ筋収縮、神経興奮伝達、消化吸収などの活動に有利である。マグロやカツオのタ−ボ・チャ−ジャ−ともいえるこの筋肉には、グリコ−ゲン、ビタミンB群や鉄分が多く栄養たっぷりだ。残念ながら生臭みが強く、赤黒く華やかさに欠けるから捨てられる場合が多い。調理法をもっと工夫して、我々もその元気の素にあやかりたいものである。しかし、カツオやマグロにすれば、いくら血合肉があるからといって生まれてから死ぬまで休みなく泳ぎ続けるのも大変なことと思う。ハタやヒラメのほうが気楽だと言うかもしれない。mu
調査船上でのマグロ測定写真
写真・調査船上でのマグロ測定

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