東京魚チング

シイラの「おでこ」

 夏から秋が旬のシイラは、八丈島では「十も百も」から訛った「トウヤク」と呼ばれる。世界の暖海に分布するコスモポリタンな表層回遊魚(ひょうそうかいゆうぎょ)で、その証拠に数ヶ国語の名前を持つ。スペイン語ではその鮮やかな色彩から黄金と言う意味の「ドラド(Dorado)」、ハワイでは「マヒマヒ(mahi mahi)」、英語ではイルカのような身軽な泳ぎから「ドルフィンdolphin fish)」と呼ばれる。八丈島では、春のカツオ曳縄漁で混獲される程度だが、日本海の山陰沖では伝統的な「シイラ漬け漁業」がある。南太平洋にも古くからの「パヤオ漁業」があるが、いずれも、シイラが漂流物に寄る習性を巧みに利用した漁法である。シイラは成長が早く、1年で体長はほぼ70cm、2年で1mを越す。日本近海で漁獲されるのは、体長1.5m,体重1.5kgクラスが多い。トローリングやルアーフィッシングでは、強く、激しく、粘り強くファイトするので人気上昇中の魚である。しかも、釣り上げた瞬間の眩いほどの黄金色に輝く体色は印象的である。ゲームフィッシングでは、南米のコスタリカで魚体重39kgの記録がある。世界には、日本では想像もつかない大きなシイラがいるようだ。こんなに大きくなるシイラも、受精卵の直径は1.5mm、ふ化時の体長はわずか5mmである。これが1年後には70cmにもなるのだから、餌も良く食べる。「シイラ漬け」や「パヤオ」には、メジナやカワハギなどの群れが付き、これを目当てにシイラが集まる。この他に、トビウオやイカ・アジも好んで食う。地方名には、他にも「マンビキ(万匹)」など、数に関係した名前が多いが、動物の漂流死体にも寄ることから、「シビトクライ」などという名前もあり、商品としない地方もある。しかし、ハワイでは「マヒマヒ」のステーキといえば最上級の料理である。水分がやや多く柔らかい白身の肉は新鮮なうちは刺身でも良く、塩干しなど加工には最適である。ところで、シイラのトレードマークは「おでこ」だが、これは成熟した雄魚だけが持つ特徴で、雌魚には無い。このような特徴を「2次性徴(にじせいちょう)」という。卵や精巣(せいそう)などの「1次性徴」は解剖しないと分からないが、「おでこ」ならば、すぐに判別できる。しかし、雄でも幼時には、この特徴は見られず、一人前の雄シイラになって、ようやく発達する。今度、釣れた時には、是非とも「男っ振り」ならぬ「シイラっ振り」の良い「おでこ」を見てやって欲しい。mu  (完)

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