東京魚チング

トビウオよ、なぜ飛ぶ?

 夏の青い海に、いかにも颯爽(さっそう)とトビウオが飛んでいる。しかし、良く考えてみると、水に溶けた酸素しか呼吸できない魚類にとって、一時的にせよ水のない気界へと飛び立つのは、ずいぶん覚悟と決心がいるように思える。海のなかには、大きさが数ミクロンしかないプランクトンから、数十メ−トルもある鯨まで、様々な生物が生きている。これらの生物は、お互いに餌(被食者)にされたり、食べる側(捕食者)に回ったりして、しのぎをけずっている。この関係を生物学では食物連鎖という。トビウオだってこの運命には逆らえない。自分より小さな魚には優位に立てるが、ちょっと気を許せば、より大型の魚に襲われて、たちまちのうちに食われてしまうのだ。生物は生き残るために、敵を欺(あざむ)き、身を隠し、攻撃するなどの様々な戦術を身につけている。「飛ぶこと」はトビウオに許された生き残り戦術の奥の手なのかもしれない。イルカやマグロに追われても、ここぞとばかりにダッシュして空中へ飛びだす。背の色は青く、上空から鳥が見ても「海の青」に染まって身を隠せる。そして、腹面は白く、水中から大きな魚が見ても海面の波しぶきに紛れてしまう。まことに、巧く逃げきれるようにできている。他にも、ダツやサヨリのように飛べる魚はいる。ボラだって、理由は判らないが跳ぶことがある。でも、一飛び五百メ-トルも「飛行」できる魚はトビウオしかいない。魚類の進化の歴史は5 億年だが、いつごろから、トビウオだけがこんな奥の手を身につけたのかはわからない。颯爽と飛ぶトビウオもはたでみるほど気楽に飛んでいるわけでも無さそうだ。魚の言葉が話せれば、トビウオに訊ねてみたい。 mu
ハマトビ水揚げ写真
写真・ハマトビ水揚げ

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