東京魚チング

トコブシの歯は?

 「歯舌」と書いて何と読むのでしょう。「はした」でしょうか。いえ、そうではなく、「シゼツ」と読みます。実はこれがトコブシの咀嚼器官(そしゃくきかん )、つまり餌を掻き取る役目をします。トコブシは無脊椎動物ですから、我々人間のような高等脊椎動物とは異なって消化器管も比較的単純ですが、口には唾液も出るし、胃や腸もあります。ところで、軟体動物である貝類には大きく分けると2つのグループがあります。一つは、ハマグリやカキなどの二枚貝、もう一つは、貝殻が螺旋状(らせんじょう)に巻かれたサザエやホラガイ等の巻貝です。では、トコブシやアワビはどちらに属するのでしょうか。「磯のアワビの片思い」と言われるように、二枚貝の片割れかとお思いになる方もいるかもしれませんが、そうではなく紛れもない巻貝なのです。良く見れば貝殻はサザエほど急角度ではありませんが緩やかな螺旋を描いています。形状もさることながら、巻貝と二枚貝の生物学的な違いは、この「歯舌」の有無です。ですから、食生活も大いに異なります。巻貝の多くは岩などに付着した海藻を「歯舌」で上手に嘗めるようにして食べますが、二枚貝はパイプ状の水管(すいかん)を貝殻の間から伸ばして水中を漂っている微小なプランクトンを取り入れて鰓で漉し、食べています。八丈島の代表的な食用貝類は、アブキ(フクトコブシ)、メットウ(ギンタカハマ)、シタダミ(ヒメクボガイ)などですが、これらはいずれも巻貝です。このことは、八丈島の海に岩礁地帯が多く、そこへ付着する海藻類が豊富であることを示しています。さて、「歯舌」を顕微鏡で観察すると、ちょうど、あの大根おろしを作る「おろし金」のような構造でリボン状になっています。しかも、切れ味が悪くならないよう、絶えず新しい「おろし金」が作られて前方に送りだされてきます。なんと、自然は巧みにできていることでしょう。今度、アブキを食べるときは、是非この点に注意して観察して見て下さい。でも、非常に小さなものですから、「歯舌」に気を取られて、歯で舌を噛まないようご用心下さい。mu
クロアワビとフクトコブシ
写真・クロアワビとフクトコブシ

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